僕は愚者です
まだ幼いのに。
それが、僕の、彼女に抱いた全てでしたよ。
ぽつぽつと人を殺した過程、殺した動機を話す彼女の瞳は、ただ静かな光だけで。
本当に、憎しみを持っていたのか、と。
否、持っていたんでしょうね。
僕は探偵と言っても、事件に関わり合いたくないほうです。手柄なんてもんはいりませんよ。
警察のお兄さん。
あなたも仰ってた。
「事件が起こった時点で、我々の負け」だと。
探偵なんて因果な商売ですよ。だから、僕は自分のことを探偵とは言いません。
周りがそう呼ぶのはしょうがないでしょう。だって、他に呼び方ありませんから。
ああ、脱線しましたね。
おんぶをしてもらったことも、肩車もしてもらったこともない彼女が初めて感じた温もりが、
人を殺した時にだなんて。
わかってますよ。あなたが仰りたいこと。
引きずられるな、でしょ? 大丈夫です。完璧に引きずられてますから。
あれで、引きずられない人間は、それこそ「人間」がよく出来ていますよ。
僕は、人間出来てないんで。
もしも、という前置きを、僕はとても嫌いです。好きじゃない。
過ぎてしまったことに議論をするくらいなら、明日のおまんま考えるほうが効率的ですから。
でもね、「もしも」って考えますよ。
あの娘が、温もりを知っていたら。
あの娘を、少しでも良いから気に掛ける人がいたら。
その後考えて、自分を殴りたくなります。今も殴りたいです。……っ、ひどい! 殴るなんて!
え? 面倒くさい? しょうがないでしょ、お酒入ってるんだから。あいたっ! 市民を殴る暴力警察ですな。
日本も世の末だ。あいた! 蹴らないでください。
あの子は、捕まらないように自分を守るために細工もしてましたからね。
死刑…はなくても、無期懲役でしょう。同情する余地は残ってますから。
あー、うるさーい。わかってますよぉ、僕はしがない探偵です。彼女は逮捕されました。
僕からこれ以上何も出来ませんよ。しませんし。無理ですし。
僕は聖人じゃありません。殺された被害者のことを思えば可哀想にと思います。
残されてしまった遺族の方には、生きて欲しいと思います。
殺人を犯してしまったあの娘には、幸せと思える時間がくればいいと思います。
僕はどれの味方にもなりませんし、なれません。
あーあ、依頼はただの探し人だったのに。事件が起きるなんて。
世界一の不幸者ですよ。
あなたは、世界一の幸せ者ですよ。手柄を立てた。出世も目の前。順風満帆だ。おめでとうございます。
え? 嫌味に聞こえる? いやだなあ、おめでとうございますって言ったじゃないですか。あいたっ!
すぐに手が出るの直したほうがいいですよ、え? 僕にだけ?
……僕には将来を約束しているはずの運命の人がいるので、あいたっ!
刑事さんは、もっとユーモアを持ったほうがいいですよ。顔はいいんだから。大きなお世話でしたね。申し訳ない。
あー、やれやれ。悪酔いし始めたようですし。そろそろ、お暇しますよ。
あ、そうそう。彼女の面会出来る日調べといてください。
……うわー、何ですかその顔。今、僕の心に罅が割れました。
お話がしたいだけですよ。僕の我儘です。あの子はもっと笑ったほうがいいと、僕は思うだけです。
一度だけです。それは違えません。僕は約束をすれば守ります。破りゃあしませんよ。
……ふふ、ありがとうございます。え、気持ち悪い? 刑事さん、実は僕のこと結構…否、かなり嫌いですよね。
あの子は、好きって言ってくれましたよ。僕の、この甘っちょろい考えを好きと言って、笑ってくれました。
あの笑顔を、もう一度だけ見たいだけです。
じゃ、また。